- 2025年4月17日

こんにちは、Ryoです。
アメリカのロースクールに留学していたとき、一番悩んだのが「どの授業を取るか」でした。
カタログには魅力的な授業が並んでいても、実際に取ってみると内容が難しすぎたり、ディスカッションが速すぎてついていけなかったり…。
そんな中でも「これは本当に面白かった!」と思えた授業がいくつかあります。
この記事では、シカゴ大学ロースクールで実際に受けて良かった授業TOP5を、私の体験を交えて紹介します。
第1位:Advanced Law and Computing

シカゴ大学で一番面白かった授業はAdvanced Law and Computingという授業です。
これの特徴的な部分はなんと言っても、コンピュータサイエンス学部と法学部の生徒が一緒になって授業を受けるというものです。
シカゴ大学ロースクールの春学期には、法学部単体ではなく他学部の生徒と一緒になって、お互いの専門分野の交差する領域について議論しようというクラスがありました。
Anthropology and Lawや今回受けたAdvanced Law and Computingなどです。
僕はもともとプログラミングに興味があったこともあり、春学期は最優先でこの授業を取ることにしました。
法学部生10人、CS学部生10人の少人数クラスでしたが、Class bidで第一希望にしたこともあり、なんとか席を確保することができました。

授業で議論する内容は多岐にわたります。
ダークパターン、スクレイピング、バイオメトリクス(生体認証)、コンテンツモデレーション、AIとIP(知的財産権)、Electronic Surveillance(電子監視)、差分プライバシー、Compelled Decryption(強制復号)といった最新のテクノロジーに関する話題がずらりと並びます。
これらのテーマに関して、その技術的な背景や関連する判例を学び、法的に何が問題なのか、どのようなポリシーを形成していくかを議論します。
僕としては、もっとプログラミングをガンガン勉強していく授業を期待していたのですが、さすがに法学部生もいるのでテクノロジーの議論というよりはむしろテクノロジーの進歩に法や社会はどう対応していくかといったかなり法律よりの授業でした。
とはいえ、法学部サイドの学生のレベルはかなり高く、コンピュータサイエンスの知識が豊富な学生も多かったです。
僕が一緒にプレゼンをした学生は、今はロースクールに通って弁護士を目指しているが、学部時代はコンピュータサイエンス学部に通っていたそうです。
なんで法律を勉強することにしたの?と聞いたら、コンピュータサイエンスはつまらないから、弁護士になることにしたと言っていました。
僕は弁護士ながらプログラマーという仕事は魅力的だなと思うことがありますが、それとは反対のことを考えていたわけですね。
隣の芝は青いというやつです。

授業で扱う判例は州レベルの判例が多かったので、アメリカ法に馴染みのない人にとっては授業についていくのは正直かなり大変です。
僕も今でこそNY Barの勉強をして捜査令状の話を理解することができますが、当時は何を話しているかあまりよくわかっていませんでした。
そこはLLM生にとって辛いところかと思います。
しかし、こういった授業に出るメリットとしては、教授が指定する予習資料にあると思っています。
自分では見つけられない文献や判例を共有してくれ、それをストックできるというメリットがあります。
授業を受けた当時は分からなかったとしても、折に触れ見返すことができますし、仕事で関連する分野の話が出てきた時にも役立ちます。
そもそもコンピュータサイエンスの議論はかなり先進的なので、この分野に精通している弁護士は少ないのではないかと思います。
専門的な分野に触れ、かつアメリカの最新判例も勉強することができたので、この授業はかなり取って良かったと思います。
余談ですが、この授業には法学部とCS学部からそれぞれ一人ずつ教師を担当していました。
CS学部の教授の同期が日本人ということで、日本人の准教授に話を聞くことができました。
他学部の日本人教授と話す機会は貴重なので、これも非常にいい経験になりました。
第2位:Blockchain, Crypt and Law

面白かった授業第2位はBlockchain, Crypt and Lawです。
これは名前の通り、ブロックチェーンに関する授業です。
僕がテクノロジー好きなのもあってかなり偏ったランキングになってしまっています。。。
こちらはAdvanced Law and Computingと異なり、ロースクール生だけが受ける授業です。
教授ではなく、実務家の先生が授業をし、セミナー形式で授業を行います。
週1回の授業なのですが、評価の仕方が工夫されています。
Canvasと呼ばれるサイトがあり、そこに予習のリーディング課題などがポストされるのですが、そこにディスカッション機能があって生徒たちが特定のトピックについて議論をすることができます。
生徒たちは、授業期間中に最低5回質問を投稿するか、もしくは他の生徒が投稿した質問に回答することが求められます。
それに加えて授業中の発言、1,500 wordsのshort paper、最終週のグループプレゼンで評価がされます。
授業の回数は全8回でしたので、5回のディスカッションとなると5週は何か投稿しなければいけません。
しかも、オリエンテーションである最初の授業とプレゼンがある最後の授業は扱うトピックがないので、投稿ができるのは実質6週となり、投稿をしなくていいのは1週だけということになります。
つまり、基本的には毎週予習資料を読んで質問を考えるか、他人の質問に答えないといけないわけですね。

ブロックチェーンという比較的ニッチなテーマを扱う授業なだけあって、集まった生徒は当然ブロックチェーンに深い興味を持っています。
そのため、知識が豊富な生徒も多く、投稿される質問も本質的な内容を突いていたり、質問に対する回答も専門的だったりします。
生徒たちの議論を見るだけでも、非常に勉強になりました。
授業のテーマとしては、そもそもブロックチェーンとはなんなのか、スマートコントラクト、ファイナンスセクターとの適合性、クリプトについて、DAO(Decentralized Autonomous Organization)、クリプト関連犯罪、関連訴訟、法規制など非常に多岐にわたりました。
グループプレゼンも面白かったです。
グループプレゼンのいいところは、JD生と仲良くなれるところですね。
普通の授業では自分から積極的に話しかけないとJD生と友達になることはできませんが、グループプレゼンがあると強制的に仲良くなれるので、アメリカ人と友達になりたい人にはおすすめです。
そして、この授業がなぜ印象に残っているかというと、レポートを頑張ったからです。
レポートのテーマはなんでもいいのですが、どうせなら面白いことがしたいと、自分でプログラムを組んでブロックチェーンの仕組みを体感してみることにしました。
その前にすでに「ブロックチェーンとデータプライバシー保護」というテーマでpaperを書いていたのですが、どうもありきたりで面白くないと思い、せっかくだからあまり人がやらないことをやってみようと思い、違うテーマにチャレンジしてみることにしました。
ブロックチェーンもプログラミングがベースとなっているので、それならばブロックチェーン技術をプログラミングで実装して、それをレポートにしてみようと思ったわけです。

僕が選んだテーマはゼロ知識証明(zero proof knowledge)というものです。
すごくわかりやすくいうと、対象者の個人情報を知らずに、その人に関する何かしらの証明を行うというものです。
例えば、ある人が18歳以上であることを証明するためにはその人の生年月日と現在の日付が必要になります。
しかし、例えば海外の業者に対して生年月日のような個人情報を安易に提供することは躊躇われる場合もあります。
そのような場合に活躍するのがゼロ知識証明です。
ゼロ知識証明を使う場合、本人の生年月日を入力し、18歳以上かを判定し、その結果を暗号化して表示するプログラムを作ります。
対象者が18歳以上かを確認したい人はその暗号(proof)を受け取り、それと公開のパラメータ(現在の日付)を利用して、その人が18歳以上かどうかを数学的に検証することができます。
これにより、生年月日や身分証を提示せずに「18歳以上である」という事実を証明できることになります。
レポートでは、上記のある人が18歳以上かどうかを判定するプログラムを作りました。
複数人のデータを用意し、その人が18歳以上かどうかの判定を行いました。
それだけでは法律のレポートにはならないので、この技術が現在のデータ保護規制にどのように適合するか、実用化するための課題は何かを検討することにしました。
これはもう評価を得るためというより、趣味や自己満足のようなものですね。
単位取得を兼ねてプログラムの勉強をし、ゼロ知識証明という技術を理解することができました。
それだけでも非常に価値のある授業でした。
第3位:Competitive Strategy

第3位はCompetitive Strategyです。
これは、法律の授業ではなく経済学の授業です。
シカゴ大学のMBAであるBoothの教授がきて、授業を行ってくれます。
ほとんどがJD生で、LLM生は2人しかいませんでした。
ミクロ経済学をベースとする授業ですが、複雑な知識は要求されず、予備知識がなくても十分楽しむことができました。
MBAの教授らしく授業が上手で、実際の企業の話を交えながらわかりやすく解説してくれました。
こちらは、毎週課題が与えられ、授業の前にreaction paperを出す必要があります。
Paperは5点満点で採点され、その点数と最後の試験の点数で成績が決まります。
授業が半分ほど過ぎたあたりでmid-term paperも提出しなければならないのでそれなりに負担はありましたが、普段は学ぶことのできない経済学を勉強することができ、非常に有意義でした。
Competitive Strategyと何かというと、企業が競争力を維持するために自社の持っているリソースをどのように配分するかを研究する学問です。
自社のリソースというと典型的なのは従業員や資金ですが、それだけではなくIPやネットワークといったありとあらゆるものを対象にして、どのようにそれを利用するかを考えます。
マイケル・ポーターのfive forces analysisやゲーム理論など経済学の有名な理論を実際の企業を題材にして考え、どのように企業が競争力を維持しているのかを学ぶことができます。
シカゴ大学といえば経済学ということで、本場の経済学を体験することはできたのはいい経験になりました。
第4位:Trust and Estate

第4位はTrust and Estateです。
これは、いわゆる家族法の授業です。
相続の処理の仕方や遺言の有効性、家族法トラスト(信託)について勉強しました。
日本ではトラストというと企業が活用するイメージが強いですが、アメリカでは家族法の分野でよく出てきます。
自分の遺産を遺す方法として、トラストが使われることが多いです。
この授業が印象に残っているのは、とても大変な授業だったからです。
講義を担当する教授は、全米で広く使われる教科書を書くほどの大物教授で、他大学からわざわざ出張してシカゴで教えています。
そして、この講義ではコールドコールがすごく多いです。
毎回10人ほどの生徒が当てられ、学期の間に少なくとも5回は教授からの質問に答えなければいけません。
ロースクールでは、その講義についての生徒からのフィードバックがあり、そのフィードバックを履修選択の際に見ることができるのですが、この講義は確かにコールドコールがとても多いと書いていました。
それでもこの授業を選んだのは、NY Barを受けるために必要な単位を取るためだったからなのですが、授業はとにかく大変でした。
いつ自分が当てられるかわからないので、予習課題はしっかりと読み込まなくてはいけません。
章末問題を答えさせることも多かったので、問題もしっかりと考え、授業中に思考過程を説明できるようにしておく必要がありました。
この授業の良かったところは、あまりに授業が厳しいために生徒間の結束力が強くなったところです。
JD生とも「この授業大変だよね」ということで仲良くなったり、この授業を一緒に受けた日本人留学生とは特に仲良くなりました。
みんなで協力して授業に備えたのはいい思い出です。
ちなみにTrust and EstateはNY Barの試験科目(MEEプロパー科目)でもあります。
この授業を受けていたおかげで、NY Barの勉強ではずいぶん楽をすることができました。
アメリカの家族法は日本と違う内容も多く、また多くの専門用語が登場するので独学するのは結構辛い分野です。
その内容を教授に説明してもらいながら勉強できたのは、NY Barの勉強にも大きなアドバンテージになりました。
日本に帰ってきて役に立つことはあまりないと思いますが、勉強してみると意外と面白いので、興味があったらTrust and Estateの授業をとってみるのもいいと思います。
僕は結構好きな科目でした。
第5位:Civil Procedure

第5位はCivil Procedureです。
民事訴訟法の授業ですね。
ロースクールによってはLLM生向けのCivil Procedureの講義もあるようですが、シカゴ大学ではなかったので、JD生と混じって授業を受けることになりました。
この授業を受けて良かったと思う理由は、JDの1年生の熱量を体感できたことです。
アメリカで有名事務所に就職するためにはインターンに行く必要があります。
最近は就活スケジュールが早くなっており、1年生の間に内定が出ることもあるそうで、1年生の夏休みにインターンに行くことが非常に大事になります。そのために1年生の前期でいい成績を取る必要があり、1年生は必死になって授業を受けます。
当然予習はしっかりするし、授業中に当てられても完璧に答えます。
教授の一言一句を逃すまいと、ものすごい速度でノートを取りますし、授業後も質問を求める学生で列ができます。
ちなみに内定が決まってしまえばその後の成績は重要ではないので、2年生と3年生はそれほど成績にこだわりません。
成績優秀者となるために努力する人もいますが、そうでない人は気楽に授業を受けています。
上記で挙げたAdvanced Law and ComputingやBlockchainの授業は、JD生たちにとってはいい息抜きとなっているようで、「好きなことについて話していればいいから、すごいい授業だよね」と言っていました。
それくらい、1年生とそれ以外の学年では熱量に差があります。
その中に少人数のLLM生が混じって授業を受けるわけですが、これが大変でした。
当然コールドコールもあるわけですが、うまく答えられないと1年生たちから「なんでわからないんだ?」みたいな目で見られることになります。
授業は常に緊張感に満ちていたので、これもいい経験でした。
また、Civil Procedureは言わずもがなNY Barの主要科目です。
MBEではもちろんのこと、MEEでもほぼ毎年と言っていいくらい出題される科目です。
アメリカは連邦制なので日本とは管轄の考え方が大きく異なります。
どの裁判所に訴訟を提起するか、どの法律を適用するかが大きな問題となり、初学者にはなかなか分かりづらいところがあります。
日本人受験生がかなり苦労する分野なので、これも講義で学ぶことができて良かったです。
Civil Procedureはアメリカ法の基本となる分野なので、LLMに行かれた際はぜひ受講してみるといいと思います。
終わりに
今回は、留学で受けて良かった授業を5つ紹介しました。
これらの授業だけでなく、受講した講義はどれも受けて良かったと思えるものばかりでした。
ロースクールでは学生との対話を重視するので、教授もしっかり準備して、講義を面白いものにしようとしています。
授業についていくのも大変なので、どうしても楽な単位はどれかと探してしまいがちですが、せっかくの機会なので周りの評価を気にせず自分の受けたい授業を受けてみるのがいいと思います。
特に、他の人が受けないような講義を受けてみると自分だけが語れる経験になるのでおすすめです。
ぜひいろいろな講義を受けてみてください。
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プロフィール
Ryo
こんにちは、Ryoといいます。 このブログは留学記です。 このブログのテーマは、『日本にいたらできないようなチャレンジをする』こと。 留学で経験したこと、考えたこと、感じたことをレポートします。 このブログの目的は3つあります。 人脈を増やすこと 学んだことをアウトプットすること ブログを継続すること このブログが少しでも皆様の役に立ってくれたら幸いです。